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乳がんは手術や放射線療法、薬物療法を組み合わせて治療してゆきます。どの治療法をどの順序で行うのかは、それぞれの方の診断の結果により異なります。

ひとくちに「乳がん」といっても、しこりの大きさや場所、ひろがりや数、閉経前か否かといったことで、治療の順序や方法が異なります。(ですから、きちんとした検査をうけて、あなたに必要な治療を受けていただくことが大切になるのです。)

乳がんの手術について考える時には、《乳房》の手術についてと、《わきのリンパ節》の手術について考える必要があります。

ここでは、わきのリンパ節の手術についてご説明します。
腋窩リンパ節郭清(えきかリンパせつかくせい)
  がんの切除とともにわきのリンパ節を切除することを腋窩郭清といい、これが現在の「標準治療」となっています。わきのリンパ節を切除することは、リンパ節にがんの転移があった場合にがんを取り除くことはもちろんですが、切除したリンパ節への転移状況によって、手術後の再発予防に使う薬剤を決定することもおおきな目的になります。

非浸潤がんといって転移する可能性がほとんど無いがんの場合には、腋窩郭清を行いません。高齢の方や合併症のある方などで手術後に抗がん剤を使用しない場合は、腋窩郭清を行わないことがあります。
重要なのは、転移のあったリンパ節の数
  リンパ節切除についてのご説明をしますと、「いくつリンパ節を切除するのですか」と聞かれることもありますが、摘出するリンパ節の数が決まっているわけでありません。

鎖骨下静脈・広背筋・胸壁に囲まれた決められた範囲のわきの脂肪組織にうまっているリンパ節を、脂肪ごと切除するのです。そして、手術後にリンパ節を1個1個取り出して、がん細胞がいるかいないのか、がん細胞のいるリンパ節は何個あるのかを、顕微鏡で詳しく調べます。なので、人によっては摘出したリンパ節が10個程度のこともあれば、30個以上のこともあります。

もうひとつのポイントは、重要なのは摘出したリンパ節の数でなく、転移のあったリンパ節の数だということです。

摘出したリンパ節の数とは関係なく、リンパ節転移のある人は、転移のない人と比べてのちのち骨・肺・肝臓などに転移・再発してくる危険性が高くなること、転移しているリンパ節の数が多くなれば、その危険性はさらに高くなることがわかっています。

ですから、リンパ節の転移状況に応じた再発予防の治療が重要になってくるというわけです。
腋窩郭清による後遺症
  以上に述べたように、リンパ節郭清は重要なのですが、約30%の人にうでのむくみ・痛み・しびれ感といったような後遺症が出てくるおそれがあり、これが大きな問題になります。

この原因は、わきのリンパ節を切除する際に、細かい感覚神経・血管・リンパ管を切除せざるをえないためです。

むくみはリハビリテーションによって改善しますが、根本的な治療法がない、リハビリの専門医の数が足りないといった、問題点があります。重症化するとやっかいなので、予防(重いものを持たない・きずをつくらない・ひどい日焼けをしないなど)や早目の対策が重要です。

なかには、手術後に手が動かなくなるのではないかと心配される方がおられますが、手を動かすような太い神経を切断することはありません。なので、手術後のリハビリをきちんとすれば大丈夫です。
センチネルリンパ節生検とは
  手術前の診断でリンパ節転移が強く疑われる人にリンパ節郭清を行うのは、がんの取り残しをさけるためにもやむを得ません。

リンパ節転移がない人には、後遺症を考えるとリンパ節の摘出をさけたいのですが、手術前に明らかなリンパ節転移を認めない人でも、手術をすると約3割の人に顕微鏡検査でリンパ節転移が見つかります。そのため、いままではすべての人にリンパ節の摘出を行っていました。

最近になって、がんの周囲に色素(簡単に言えば、色のついた水です)や放射性同位元素(アイソトープ)を注射すると、これらがリンパ管を通ってがん細胞が最初にたどり着くリンパ節である「センチネルリンパ節」に集まることがわかってきました。

そのため、センチネルリンパ節を1個から数個だけ摘出し、がんの転移を検索する、センチネルリンパ節生検という手法が盛んに研究されるようになりました。センチネルリンパ節にがん細胞がなければ、それ以外のリンパ節にも転移がないとみなして、リンパ節の摘出をしないことにより、わきのリンパ節を切除することに伴う後遺症をさけることができます。センチネルリンパ節にがん細胞を認めた場合には、腋窩リンパ節郭清を行うことになります。
センチネルリンパ節生検の正確性
  センチネルリンパ節生検は、かなり正確な方法であることが、証明されてきています。ただ、この方法はあくまで検査なので、100%正しいということはありません。転移のあるリンパ節を見つけることができないために、転移がないと見誤ってしまうことがあります。この確率はだいたい5〜10%と考えられています。

それでは、実際に見逃しがおこるのは、全体の何%になるのでしょうか。例えば見逃しの確率を10%とします。わきのリンパ節に転移している可能性が20%ある人100人にセンチネルリンパ節生検を行った場合には、18人のわきのリンパ節に転移が見つかり、2人(2%)に転移の見逃しがおこることになります。この場合には、後日(数ヶ月〜数年)してからわきのリンパ節がはれてきて、そのときにリンパ節の摘出を行うことになります。

反対から見れば、転移のない80人はリンパ節の摘出をまぬかれて、ほとんど後遺症を気にしなくて済むというわけです。同じ確率でもどちらの方からものごとを見るかで、選択する方法が変わってきます。

別の問題として、センチネルリンパ節が発見できないということがあります。この場合には、リンパ節を切除するのが基本となります。
また、手術中にリンパ節へのがん細胞の転移を検査する際に転移が発見されなくても、手術後に詳しく調べたときに発見される場合があります。このときには、再手術を行って、リンパ節を切除するのが基本となります。
センチネルリンパ節生検の注意点
  注意しなければならないのは、現在この方法は取り入れられてきたばかりなので、経験のある施設とない施設では見逃しの確率は異なっている可能性があるという点です。

センチネルリンパ節生検の正確性をきちんと評価してから行っている施設はよいのですが、これをせずにセンチネルリンパ節生検をしているところもあるようです。きちんとした評価を事前に行ってから導入している施設を選ぶことが重要です。

もう一つ注意が必要なのは、導入されてから10年ほどしかたっていないので長期的な成績がまだわからないことです。現在欧米でセンチネルリンパ節生検と腋窩郭清を比較している研究が行われているところで、センチネルリンパ節生検で転移を見逃した場合、生存率に悪い影響を与えるかどうかは、現時点では不明です。

また、ごくわずかながら特異体質がある人は、色素に対してアナフィラキシーという重度のアレルギーをおこすことがあります。

しかしながら、技術的にはもうこれ以上改善ができないところまで来ていますので、あなたが「できるだけ後遺症のすくない手術をえらびたい」のであれば、センチネルリンパ節生検を、「ほんのすこしのがんでも、見逃しを許したくない」のであれば、腋窩郭清を選ばれるとよいでしょう。

ちなみに、この方法は日本だけでなく、世界中で広く行われるようになっています。
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