腫瘍精神科より

病気になるということは体がストレス状態にあることを意味しますが、このストレスはこころへのストレスになります。がんになるということは体にとってとても大きなストレスです。したがってがんになることも、がんではないかと心配することもこころにとても大きなストレスになります。

こころが強いストレスにさらされると、驚き、恐怖、不安、過敏性あるいは真逆の無反応が起こります。診断は何かの間違いじゃないかと否認してみたり、何で私がと怒りが出てもきます。何とかいい情報をとネットを調べますが、怖いことばかりが書かれているようで余計打ちひしがれてしまいます。実はすでにストレスで心のエネルギーを失っているため、ネットの情報を正しく自分の場合に当てはめて客観的に判断することができず、自分にとってよくない情報だけに心を奪われ、結局こころのエネルギーをさらに減らしうつ状態になって行ってしまいます。

強すぎるストレスというものはこのように体もこころも健康な状態を失わせるのですが、私たちの体とこころにはレジリエンスといって元の状態に回復させる力を持っているのです。強すぎるストレスをほどよいストレスに押し戻す働きといってもいいですね。

腫瘍精神科ではこころのしんどさを軽減し、レジリエンスの働きを高める治療を行います。精神科の治療は薬物療法、環境調整、精神療法(心理カウンセリング)から成り立ちます。もちろんそれぞれに標準指針がありますが、どの人にもその指針を当てはめるということはしません。どの人も乳がんである、あるいは乳がんかもしれないと同じ状況にあるようでも、もちろん乳がん自体がどんなタイプか違いますし、自分の身近なところに乳がんの人がいたかどうかも違い、自分を取り巻く環境が自分の乳がんのことだけ考えればいいのかほかにも関わらなければいけない事情があるかで違い、薬を飲むことに違和感があるかどうかも違い、そもそもがんに対する考え方も違い、生まれてからのいろいろの出来事の受け止め方もそれぞれ違うでしょう。

患者さんに寄り添うことが大切だといいますが、その方その方の全体像を精神医学的(全人的)に把握し、その方のレジリエンス・自然治癒力を高めるよう計らうことに他ならないと思います。当科では、患者さんに寄り添う治療を行います。


「乳がん」かもしれない、と不安をかかえてすごしているあなたへ

「あれっ?」と思ってから随分時間がたっていませんか? 「そんなはずないよ、だって痛くないし」「この予定が一段落したら・・・」 なんて思っていませんか? また、不安な気持ちがあるときには、あちこちで目にする「乳がん」の話題がすべて自分にあてはまってしまう気がして、「病院にいったほうがいいだろうけど、いくのが怖い」といったお気持ちかもしれません。 しこりがあったからといって、すぐに「乳がん」と決めてしまうことはありません。 まずは、専門医のいる病院へ診察に行きましょう。 気になるしこりの正体を見極めて、あなたに必要な治療を考えてゆきませんか。 仮に乳がんであったとしても、早く治療をはじめることがあなたの命を守ることにつながると私たちは考えます。 勇気をもって、「きちんとした」治療のスタートラインにたちませんか。


「乳がん」と診断されたあなたへ

乳がんと診断されて頭の中が真っ白になったようだった、 と思われたかもしれません。 もしかするとどうやって病院からおうちへ戻られたか覚えていない、という方もおられるかもしれません。「事故にあわずに帰ってきたのが不思議です」と言われた患者さんもおられました。 今までの自分ではなくなってしまったように感じたり、こころが硬く閉ざされてしまったように感じているかもしれません。「そんなはずはない」「何かの間違いに違いない」と思ったり、あるいは「どこか別人のことのように、淡々とうけとめられました」という感じ方をされた方もおられるかもしれません。 どうしても悲しくて、ふとしたところで涙することがあるかもしれません。たとえば、食欲がなくなったり、夜眠れなかったり、めまいがしたり・・・体のあちこち、特に「乳がんがある」とわかった側の肩こりや腕のしびれ、息苦しさなどの体の不調を感じたりするかもしれません。
しかし、今、このような気持ちの動きや調子の変化に気がつかれるのは、すごく当然のことだと思うのです。なぜなら、あなたが「乳がん」から逃げずに正面から向き合い、治療への一歩を心身ともに踏み出した、つまり治療のスタートラインにたったからこそ、さまざまな気持ちの動きがあるのだと考えることができるからです。 通常、このような気持ちは2週間をめどに落ち着きをとりもどすといわれます。人によってはこの期間は短かったり、また気持ちが元に戻ってしまったりするかもしれません。すこし辛い時期ですが、まず、2週間、お待ちください。 それでも、夜眠りが浅い日が2週間以上続いたり、気分が沈む、今まで楽しめていたことに興味がなくなったり、どうでもいいやという気分が強くなったりするときには、主治医や看護師にご相談ください。